外国人雇用を行う際の就業規則作成(改定)のポイント
外国人労働者が日本で働くためには原則として就労ビザ(在留資格)が必要です。
簡単にいうと「働いても良いですよ」という許可がないと就労できないのです。
今就労ビザ(在留資格)を持っているからと言って永遠に許可され続ける保証はありません。
そして、許可がない外国人を会社で働かせることはできません。
当たり前の話ですが、いざそうなったときには揉めてしまう可能性もあります。
そこで、就業規則にも会社のルールとして記載した方が良いことがいくつかあります。
今回は外国人雇用ならではの就業規則への記載ポイントについてみていきましょう。
※本来「ビザ(査証)」と「在留資格」は異なるものですが、一般的に使用される意味にあわせてこの記事では「在留資格」のことを「ビザ(在留資格)」と表記します。
就業規則とは
就業規則とは労働時間や休日、賃金制度などの労働条件に関することや事業所(職場)内の規律について定めたものです。
常時10人以上の労働者を雇っている場合に作成義務があり、労働基準監督署に届け出る必要があります。
会社内で統一されたルールがないと、問題が起こった際の対応が人によって異なり不公平が生じたり、きちんとしたルールがないことで、会社側と労働者側それぞれが自身の都合の良い意見ばかり言い、労使紛争に発展してしまうなど時間もお金も費やしてしまう事態になりかねない危険性があります。
就業規則には社内のトラブル予防や秩序維持の効果があります。
就業規則を見直すタイミング
就業規則を見直すタイミングは主に次の通りです。
- 法令改正があるとき
- 新たな手当を追加したい、フレックスタイム制度を開始したいなど会社の運用に変更があるとき
- 新たにパートを雇い始めるなど雇用体系の追加や変更があるとき
- 従業員が増えたとき
- 新卒採用をはじめたとき
- 外国人雇用をはじめたとき など
就業規則は1つの事業所で常時10人以上雇用したときにはじめて作成義務が生じます。
従業員が10人前後のときは、争いに発展する可能性など想像できずに就業規則も最低限の記載内容ですませてしまっている会社もあるかもしれません。(争いが想像できないのはとても良い職場環境だと思います)
また、「人数が少ないうちは締め付けているようで細かく規定するのは嫌だ」というお考えも聞きます。
しかし、従業員が増えてくるとトラブルが生じる可能性も増えますので、できれば30人、少なくとも50人くらいになったタイミングで一度見直しされることをおすすめしています。
見直した結果、変更しないという選択肢はありです。
外国人労働者を雇い始める際もきちんとしたルールがあった方が伝えやすく、また、外国人労働者も分かりやすいので見直しをおすすめしています。
就業規則が適用されるために必要な3つのこと
10人以上の従業員がいる事業所では次の3点を守らないと就業規則の有効性を主張できない可能性があります。
これは作成時だけでなく変更時も同じです。
従業員に周知すること
いくら就業規則があっても、従業員がその内容を知る術がなければ守りようがありません。
周知せずに問題が起こった際に後出しじゃんけんのように就業規則を持ち出して従業員を処分することは認められていません。
- 従業員一人一人に配布する
- 職場の見やすい場所に置く
- 電子媒体などで記録し、従業員ならいつでも誰でも確認できるようにする
などし、会社側と従業員側双方が内容を承知の上、会社のルールとして運用します。
従業員代表の意見を聴く
就業規則とともに従業員代表の意見書も労働基準監督署に提出します。
就業規則は従業員を拘束するものなので、会社側が勝手に作成して勝手に運用し始めるということはできません。
必ず従業員代表の意見を聴く必要があります。
この従業員代表は従業員側が選びます。会社側が指名することはできず、管理監督者もなれませんので注意が必要です。
また、代表従業員の意見を聴くことを求められているのであって、同意までは求められていません。
そのため、反対意見が記載された意見書を提出しても問題ありません。
ただし、反対意見を無視するのではなく、会社として受け入れられるものなのか、難しいものなのかなど今後の運用の検討は行うのが望ましいでしょう。
労働基準監督署に届け出ること
従業員代表の意見書とともに事業所管轄の労働基準監督署に届け出ます。
労働基準監督署で受付されると、日付入りの受理印が押されます。
もし労働基準監督署の調査などがあった際に受理印が押されていないものが出てきたら、届出義務違反で指導される可能性もあります。
また、各種助成金の申請も就業規則が添付書類となっていることが多く、受理印がないと支給対象外になる恐れがあります。
従業員が10人以上いる事業所で就業規則の作成・変更を行った際は必ず労働基準監督署に届け出ましょう。
外国人雇用を行う際の就業規則作成(変更)のポイント
外国人雇用ならではの就業規則の記載内容をみていきましょう。
「在留資格の変更が見込まれる際は速やかに会社に届け出ること」
会社への届出規定に「在留資格の変更が見込まれる際は速やかに会社に届け出ること」を追加します。
外国人が日本で働くためには原則として就労ビザ(在留資格)が必要ですが、身分系のビザ(在留資格)を持っている場合は違法な職でない限り制限なく働くことができます。
しかし、その身分を喪失したときは働けなくなる可能性があります。
例えば、「日本人の配偶者等」ビザを与えられている場合は、日本人と離婚したら「日本人の配偶者等」ビザ(在留資格)ではなくなるので、就労不可になってしまうかもしれません。
そのため、在留資格の変更が見込まれる場合は早めに届け出てもらって、働き続けるのであれば、この先のビザ(在留資格)変更手続きのサポートを行っていくことが望ましいです。
「在留資格の変更や在留期間の更新等在留カードに変更が生じた際は14日以内に会社に届け出ること」
会社への届出規定に「在留資格の変更や在留期間の更新等在留カードに変更が生じた際は14日以内に会社に届け出ること」を追加します。
在留カードの内容は常に最新の情報を把握しておく必要があるので、変更が生じた際には必ず提出してもらうよう義務付けた方が安心です。
常に最新の内容を把握しておくことで、在留期間更新許可申請の案内など会社でサポートすることができ、不法滞在や不法就労になってしまうリスクも低くできます。
「家族情報に変更があった際は7日以内に会社に届け出ること」
会社への届出規定に「家族情報に変更があった際は7日以内に会社に届け出ること」を追加します。
家族情報の変更については外国人労働者がいなくても記載のある会社が多いと思います。
ここで7日以内にしているのは、「日本人の配偶者等」ビザを与えられていた外国人が離婚した際には出入国在留管理局に14日以内に「配偶者に関する届出」を行い、6ヶ月以内に他のビザ(在留資格)に変更するか出国する必要があるためです。
会社に届があった時点で「配偶者に関する届出」を行っていなくても、その後のビザ(在留資格)変更手続きも含め会社でサポートすることができます。
また、会社でサポートすることで不法滞在や不法就労になってしまうリスクを低くできます。
「不法就労が発覚したとき」
解雇事由に「不法就労が発覚したとき」を追加します。
解雇を行うためには、あらかじめ、どんな時に解雇されるのかを明示してその要件に合致する必要があります。
解雇事由は具体的な記載をした方が運用しやすいです。
しかし、全てを具体的に記載することは難しいので、「重大な経歴詐称や隠蔽が発覚したとき」など少し含みを持たせた記載にすることがあります。
そうなると、例えば従業員側からは「これは重大なとまでは言えない」など反論がくる可能性も否定できません。
不法就労が発覚したときは会社としては絶対に雇い続けることはできないので、ピンポイントな記載をした方が安心です。
従業員へ説明する際もピンポイントな要件に該当した方が解釈の余地がなくシンプルです。
また、会社のルールとして定めることで、雇用開始時の説明の際も「不法就労が発覚した際は解雇になります」と根拠を持って説明することができます。
「適切な在留をしていると確認できない場合および適切な在留資格に変更を希望しない場合または適切な在留資格への変更が認められなかったとき」
解雇事由に「適切な在留をしていると確認できない場合および適切な在留資格に変更を希望しない場合または適切な在留資格への変更が認められなかったとき」を追加します。
不法就労と確信は持てなくても、適切な在留をしているか確認できない場合(度重なる依頼をしたにも関わらず在留カードを提示してもらえないなど)も会社にとっては不法就労助長罪に問われてしまうリスクも否定できません。
そのため解雇事由をして記載しておくと安心です。
また、
①就労できるビザ(在留資格)を持っていないにも関わらず、ビザ(在留資格)変更や資格外活動許可の申請を拒否された場合
②日本人の配偶者等ビザ(在留資格)の外国人労働者が離婚して、就労ビザ(在留資格)への変更申請をして認められなかった場合(※)
も会社としては絶対に雇い続けられないので解雇事由にします。
なお、②の場合、適切なビザ(在留資格)の有効期限までは適法な就労と認められますので、その最後日をもって解雇にすることが望ましいと言えます。
(※)資格外活動許可を受けていないことが前提
不法就労については以下の記事をご覧ください
外国人雇用に関する相談を受け付けています!
外国人雇用を行うことは、今までの労務管理体制を見直す良いきかっけです。
その中の一つが就業規則の作成(変更)です。
就業規則は会社の方針を示す大切なものです。
不明点や気がかりな点があったら専門家(社会保険労務士)に相談の上、納得のいくものを作成しましょう。
外国人雇用は人材不足の解消や社内のグローバル化への対応、社内に新しい風を吹かせることができるなどメリットがある一方、手続きの煩雑さや労務管理の面倒、文化や習慣の違いによるトラブルなどの懸念点も無視できないのではないでしょうか。
行政書士オフィスウィングでは、就労ビザの取得や期間更新から労務管理の相談まで外国人雇用について幅広く対応しております。併設しております社会保険労務士オフィスウィングでは社会保険の手続きや就業規則の作成・見直しも対応しておりますので、お気軽にご相談ください!
よろしければ、社会保険労務士オフィスウィングのホームページもご覧ください。